全員が相続放棄したら、実家や土地はどうなる?
~2026年4月最新の管理責任ガイド~
こんにちは、司法書士の中村です。
「親の家を相続したくない」「遠方の山林や農地を引き継いでも困る」といった理由で、相続人全員が「相続放棄」を検討されるケースが増えています。
しかし、多くの方が不安に思うのが、「全員が放棄したら、その不動産は一体誰が管理するのか?」という点です。2023年(令和5年)4月の民法改正を経て、現在のルールはどうなっているのか。2026年の今、知っておくべきポイントを解説します。
相続放棄をしても不動産は「消えてなくならない」
相続放棄をすれば、借金だけでなくプラスの財産も一切引き継ぎません。しかし、不動産という「物」は物理的に残り続けます。これまでは「最後に相続放棄をした人が管理責任を負う」という解釈もありましたが、現在の法律ではより明確な基準が設けられています。
「現に占有しているか」
最新のルール、改正民法第940条第1項(2023年4月施行)では、相続放棄をした人がその不動産に対して管理責任(保存義務)を負うのは、「相続放棄の時に、その財産を現に占有している場合」に限られます。
責任がある例: 亡くなった親と同居していた、あるいは空き家を日常的に管理・占有していた場合。
責任がない例: 疎遠で一度も訪れたことがない、あるいは存在すら知らなかった不動産など、占有していない場合。
「現に占有」していないのであれば、相続放棄によって管理責任から解放される可能性が高くなりました。
もし「現に占有」していて責任が生じる場合、その義務は「次の相続人」または「相続財産清算人」に財産を引き渡すまで続きます。
単に「放棄したからもう知らない」と放置し、建物が崩れて通行人に怪我をさせた場合などは、損害賠償責任を問われるリスクがあるため注意が必要です。
責任がゼロになるのか
上記の「現に占有しているか」という論点で述べたように、相続放棄をした人が不動産の管理責任(保存義務)を負うのは、相続放棄の時に、その財産を「現に占有している場合」に限定されるようになりました。
しかし、「責任が本当にゼロか」という点については、以下の3つのリスクや注意点を理解しておく必要があります。
1.「占有していない」ことの証明と近隣への配慮
法律上は「現に占有している」場合のみ責任を負うとされていますが、実務上は「本当に占有していなかったのか」が争点になる可能性があります,。また、民法上の責任は免れても、土地工作物責任(民法第717条)などの規定により、第三者(隣人や通行人)に対して損害賠償責任を問われる可能性が完全には否定できません。そのため、思わぬ請求を避けるために最低限の管理が必要とされることもあり得ます。
2.空家対策特別措置法(空き家法)による通知
「空き家法」の規定では、相続放棄をした人も「管理者」に含まれると解釈されるのが一般的です。
〇行政指導の対象: 自治体からは依然として「管理者」と見なされ、空き家の状態について助言や指導の通知が届き続ける可能性があります。
〇費用の負担: 放置された空き家が「特定空き家」に指定され、自治体が強制的に解体(行政代執行)した場合、その費用は正当な理由があれば拒否できると考えられていますが、自治体とのやり取りが発生します。
3.「完全なゼロ」にするには清算人の選任が必要
相続放棄によって不動産の所有権は手放せますが、不動産というその「物理的な存在」に対する責任を完全に消滅させ、自治体等からの連絡も一切断ち切るためには、相続財産清算人を選任し、その人に財産を引き渡す必要があります。
ただし、この選任申し立てには、下記に述べる「予納金」という費用を裁判所に納める必要があります。
結論として、第三者への賠償リスクや自治体からの連絡といった実務的な負担まで考慮すると、完全な「リスクゼロ」とは言い切れないのが実情です。
全員放棄した後の不動産はどうなるのか
相続人全員が放棄すると「相続人不存在」という状態になります。
この場合、不安がある場合は、相続放棄と併せて、相続土地国庫帰属制度の利用や清算人の選任を検討することをお勧めします,。不動産を適切に処理するには相続財産清算人の選任が必要となります。
〇相続財産清算人の選任: 家庭裁判所に申し立てを行い、弁護士さんなどが選ばれます。
〇予納金:上記の 申し立てには、清算人の報酬などに充てる「予納金」が必要です。相続財産に不動産がある場合は、50万円〜100万円以上かかるケースもあり、これはだいぶ大きなハードルとなります。
〇最終的な帰属: 清算手続きを経て、引き取り手がいない不動産は最終的に国庫(国のもの)に帰属します。
今、私たちができること
改正法によって、身に覚えのない不動産の管理責任を押し付けられるリスクは減りました。しかし、相続人全員で放棄した後の空き家が「放置」され、近隣に迷惑をかける問題(特定空き家)は依然として深刻です。
相続放棄のほかにも、不動産の状況によっては「相続土地国庫帰属制度」の利用や、売却の可能性を検討した方が、トータルの費用や手間を抑えられる場合もあります。
「とりあえず放棄すれば安心」と決めつけず、まずは私たち専門家にご相談ください。あなたの状況に合わせた最適な解決策を一緒に探しましょう。本コラムは2026年時点の法令に基づき作成しています。個別の事案については必ず専門家にご相談ください。ひふみリーガルオフィス(026ー403-0218)までお気軽にご相談くださいね。